放射能の一般知識

放射線

原子の同位体の中にエネルギー的な不安定なものがあります。不安定な同位体は放射線(α,β,γ線など)を出してエネルギー的に安定な核種へ変わろうとします。原子核自ら放射線を出すこの性質を放射能といいます。放射能を持つ同位体を放射性同位体と言い、その核種を放射性核種といいます。原子の同位体の中にエネルギー的な不安定なものがあります。不安定な同位体は放射線(α,β,γ線など)を出してエネルギー的に安定な核種へ変わろうとします。原子核自ら放射線を出すこの性質を放射能といいます。放射能を持つ同位体を放射性同位体と言い、その核種を放射性核種といいます。

放射線にはアルファー線、ベーター線、ガンマ線、中性子線があります。

アルファー線(α線)は正の電荷を持ったヘリウムであります。ベーター線(β線)は負の電荷を持った電子の流れ(電子の流れは電流を形成しますので、電流と同じ)であります。ガンマー線〈γ線〉は電磁波で、光と同じでありますが、波長が可視光より短く強いエネルギーを持ち、非常に透過していきますが、鉛板で止められます。中性子線は質量1の中性子の粒子線で、γ線よりも強くあらゆるものを透過します。

α、β、γ線について表1にまとめました。

表1 放射線の性質
放射線本体透過力
αHe2+
イオン化したヘリウム原子核
非常に弱い
空気中数cm、体内1mm
βe-
電子
弱い
γ電磁波
非常に強い光線
強い
中性子粒子線非常に強い

表1に示しましたように放射性核種はα、βの放出にともなって、核種が新しい原子核に変わります。

放射線の放出による核種の崩壊

放射性の核種が放射線を出して、親核種から娘核種に崩壊していきます。崩壊速度は、原子数$N$に比例する一次反応であります。

[[ \tag{1} -\frac{dN}{dt} = \lambda N ]]

$-dN/dt$は$-\Delta N/\Delta t$の表現と同じで、時間$t$当りの原子数$N$の減少量は、崩壊定数($\lambda$、ラムダ)と$N$に依存します。

最初の原子数を$N_0$とすると、

[[ \tag{2} \ln N_0 - \ln N = \lambda t ]]

ここで$\ln$とは自然対数の記号です。

$N_0$が$N_0/2$まで崩壊する時間を半減期($\tau$、タウ)とすると、

[[ \tag{3} \tau = \frac{\ln 2}{\lambda} \simeq \frac{0.693}{\lambda} ]]

半減期はその核種に特有な値であり、トリチウムはβ線を放出し12年間、ヨウ素131はβ線、γ線を放出し8日間で半分になります。ヨウ素は甲状腺ガンの一因です。

ヨウ素の崩壊による放射線の減少には、10分の1になるのに、ほぼ1か月かかります。ヨウ素131は、崩壊により減少していきますが、半減期8日でありますので、8日経過するとヨウ素の放射線量が半分になり、さらに8日経過すると元の4分の1になります。24日目では8分の1になります。このようにすぐに減少するのでなく、10分の1になるには1か月近く(26.6日)要することになります。

例として図1(a)、(b)にセシウムとヨウ素の経過時間と放射線量の減少の関係を示しました。図では初期の放射線量を100として表わしてあります。図からわかりますように、セシウムは半減期が30年なので、放射線量が半分になるには30年、ヨウ素は半減期が8日なので、放射線量が半分になるには8日かかります。セシウムは半減期が長いので、放射線量が10分の1になるには約100年(99.7年)かかります。

セシウムの時間経過に対する放射線量の減少
図1(a) セシウムの時間経過に対する放射線量の減少
ヨウ素の時間経過に対する放射線量の減少
図1(b) ヨウ素の時間経過に対する放射線量の減少
表2 おもな放射線同位元素
元素核種放射線種半減期コメント
水素3重水素(トリチウム)β線12年
炭素炭素14β線5730年年代測定に使用
リンリン32β線14日
コバルトコバルト60β線5年
ヨウ素ヨウ素131β線8日原子力発電所
(甲状腺ガンを引き起こす)
ウランウラン235
ウラン238
α線γ線
α線
7.1×108
4.5×109
原子力発電所
(ウラン235は、広島の原爆で使用された)
プルトニウムプルトニウム239α線γ線24400年原子力発電所(非常に強い毒性)
(長崎の原爆で使用された)
セシウムセシウム137γ線30年原子力発電所
(筋肉中に分散)

放射線の強さの単位

原子が1個崩壊するごとに一回放射線が出るので、崩壊速度は単位時間当たりの放射線の量でもあります。放射能のSI単位はベクレル(Bq)であり1ベクレルは1dps(毎秒当りの壊変: disintegrations per second)であります。ラジウム1gの放射線にほぼあたる7.1×1010dpsを1単位としたキュリー(Ci)も用いられます。

電離放射線が生体組織に影響を与える単位として、組織の吸収するエネルギー量を用います。生体組織1kgあたり1ジュール(0.239カロリー)の加熱を生じる放射線量を1グレイ(1Gy)とします。また各放射線(α、β、γ、エックス線など)が生体に及ぼす影響を放射線の線種によらずあらわす単位をシーベルト(Sv)で示します。4.5Sv浴びるとヒトの50%が死亡すると想定されます。

1Gyは1Svに相当するとみなされています。なお放射線の量は、積分(その時間中に受けた放射線の量をたし算する)で示します。1時間に受けた放射線量(Sv/h)、1年間に被曝した放射線量(Sv/年)などで示します。

一般の人は宇宙からの放射線を年間に約1mSv/年(1ミリシーベルト/年、1mSv=(1/1000)Sv)受けています。

表3 線量の単位
種類単位名記号コメント
放射能ベクレルBq毎秒当りの壊変
照射線量クーロン/キログラムC/kg空気中に1クーロンのイオンを作るγ線あるいはX線の量
レントゲンR1C/kg=3.876R
吸収線量グレイGy1kgあたり1ジュールのエネルギーの吸収があるときの線量
ラドrad1Gy=100rad
線量当量シーベルトSv生体への影響を表す単位
(吸収線量)×(線質係数)×(修正係数)
レムrem1Sv=100rem
放射線の強さの単位のまとめ
  • 1ベクレル (1Bq) = 1秒間に1回放射線が出ます。時間当たりの強さを示します。
  • 1グレイ (1Gy) = 生体組織1kgあたり1ジュールの発熱を与えます。
    1ジュール = 0.239カロリー
  • 1シーベルト = 1グレイ (β線及びγ線の場合)
    β線及びγ線については、線質係数(Q: 放射線による生体への影響の係数)が等しく、Q=1でありますので、Sv単位とGy単位は等しくなります。
  • 20シーベルト = 1グレイ (α線の場合)
    α線などの荷電粒子は生体へ大きな影響を有するので、線質係数が20以上となり、同一Gyでも大きなSv値を与えます。
単位換算
  • 1シーベルト = 1000ミリシーベルト = 1,000,000マイクロシーベルト

生命とのかかわり

4.5シーベルト

50%の人が死亡するとされています。

自然からの放射線

ヒトが年間被ばくする量は、日本では年間1.4ミリシーベルト、世界では2.4ミリシーベルトとされています。世界の年間の自然放射線量2.4ミリシーベルトの内訳は、宇宙から0.38mSv、大地から0.46mSv、吸気中のラドンガスなどから1.33mSv、食物から0.23mSvとされています(1988、1993年国連科学委員会、放射線科学センター)。

子供の放射線感受性

一般的に子供は成人よりも放射線感受性が高いので、放射線被ばく線量は十分注意する必要があります。理由は小児の臓器の細胞分裂速度が速い、生存期間が成人よりも長い、遺伝的に有意な期間が成人に比べて長いことによります。

放射性元素

ヨウ素-131

呼吸や食品(野菜、牛乳など)からヨウ素-131が生体に吸収されたとき、10~30%は甲状腺に24時間以内に濃縮されます。これはヨウ素が甲状腺ホルモンの構成要素であるために集まってくるからです。この傾向は成人より幼児において強くあらわれます。また、放射性ヨウ素が甲状腺に集積することで甲状腺がんを生じる可能性があります。この対処法として、ヨウ化ナトリウムやヨウ化カリウムを製剤化した安定化ヨウ素剤を服用します。放射性ヨウ素が体内に摂取されてから8時間以内に安定化ヨウ素剤を服用すると、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を約40%抑制することが期待できます。なお、日本人は日常生活でコンブなどの海草を食べることが多く、ヨウ素を摂取する頻度が高いため、放射性ヨウ素が希釈されることが知られています。

放射性セシウム

ウランやプルトニウムの核分裂によって作られた放射性セシウムは人体に吸収されたのち、血液によってまんべんなく人体に分布しその後、筋肉部分に集まります。半減期が30年と長いので、注意が必要です。なお、ヒトの体内の代謝や生命活動によって、体外に排出されるが、成人男性で半減するのに110日間かかるとの見方もあります。(放射線と人体、福利他、研成社、1999)

ウラン

ウランが人体にとりこまれると白血病を引きおこすとされています。ウランには同位体が3つ存在し、ウラン238が地球上に最も多く存在する同位体(存在比99.275%)であり、次に多い同位体はウラン235(存在比0.72%)です。原子力発電に用いられるのはウラン235であるが、存在比が小さいためウラン235を濃縮して使用します。

プルトニウム

非常に毒性が強く、製造工程などでの吸引による生命への障害が伝えられています。日本ではMOX燃料(混合酸化物燃料)として原子力発電所(福島第一原子力発電所3号機)で使用されていました。MOX燃料とは、ウランとプルトニウムの酸化物から構成される燃料で、プルトニウム濃度は4~9%程度です。